〜〜〜 ビアトリクス・ポターの聖地を巡る旅(2018年6月) 〜〜〜
3日目(6/19) 湖水地方 ボウネス・オン・ウィンダミア〜ニアソーリー〜ホークスヘッド〜コニストン
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▼ヒルトップハウスの2階へと通じる階段は18世紀に付け替えられたもの 英国 湖水地方ニアソーリーにあるヒルトップ農場のヒルトップハウス内部見学で、1階を見て回り、2階へとつながる階段にもたくさんのエピソードがあり、しっかりと見ておきたい。 ヒルトップハウスの2階へと続く階段(The Staircase)は、最初から取り付けられていたものではなく、途中で付け加えられたものだった。17世紀末に建てられたヒルトップハウスは、玄関ホールに小さな螺旋階段(spiral staircase)が取り付けられていた。 ![]() 18世紀、現在の階段部分が増築され、途中に踊り場がある折り返し階段に付け替えられた。階段の手すりは緩やかにカーブし、手すりを支える手すり子は、シャープな角材の間に木材を回転させテーブルの脚のように丸く削りとられた手すり子が並ぶ、とてもエレガントな手すりがつけられた。 ▼踊り場の装飾品 ![]() 階段の折り返し部分にある踊り場は、畳一畳分ほどのスペースがあり、手すり子と同じように丸く削りとられた木材で仕切られた柵があり、外壁部分に高さ2メートルはあろうかと思われる格子の枠がはめ込まれたガラス窓より、薄暗い玄関ホールに明るさを届ける。ビアトリクスは、階段の踊り場から玄関ホールまで明かりが射しこむ大きな窓と、エレガントな手すりがついた階段を気に入っていた。 ![]() 『ひげのサムエルのおはなし』の冒頭、タビタお母さんがトムを探している場面で階段が描かれた。この場面でタビタお母さんの後ろに描かれたのは、踊り場に設置された「ロングケース・クロック」。 ![]() ロングケース・クロック(Longcase clock)は、高さ2メートル50センチあり、現在はホール・クロックと呼ばれる振り子時計で、アメリカの呼び名はグランドファーザー・クロック。18世紀のショーフィールド社(Schofield)のもので、ビアトリクスは「時計の音はゆったりとした心臓の鼓動のよう」と、結婚後住居をカースルコテージに移してからも「古い家が寂しくないよう付き添いに行く」と、毎日のようにヒルトップハウスに出かけたそうだ。 ![]() 大きな窓の前に19世紀初頭に活躍したイタリアの彫刻家ピエトロ・マーニ(Pietro Magni)の「本を読む少女」の摸刻像(本物よりひと回り小さいサイズ44x27センチ)が飾られている。この像の飾り台としてビアトリクスが使用したのは、「棺(coffin)」と呼ばれる17世紀のスツール(coffin stool)。 「地元で棺桶をスツールの上に載せ、そのスツールのことを棺桶スツールと呼ぶ」ことから、そんな名前がつき、スツールを使用するのはご遺体をネズミから守るための風習が残っていることからだそうだ。座面の四方が折りたためる長方形の椅子のことで、彫像の下のスツールも見逃せない逸品(珍品?)だ。 ![]() 踊り場の窓より眺められるニアソーリー村の景色。ビアトリクスも何度となく眺めたであろう場所に自分が立っていると思うだけで感慨深い。 ▼挿絵に描かれた同じ目線で撮影しよう ![]() 階段を上った先は、『ひげのサムエルのおはなし』でサムエルがめん棒を転がし運ぶ場面に描かれた。 ![]() そうそう話が前後するけれど、めん棒の前にバターも失敬したサムエル。こちらは階段の上り口部分が描かれ、大きな窓から射しこむ光が眩しい中、ネズミの通路を通らずにふてぶてしく階段を上るサムエル。もし挿絵と同じ角度で撮影するならば、階段の左側の一人立てるだけのスペースがあるところから撮影すると、階段の向きが挿絵と同じになる。 『ひげのサムエルのおはなし』はヒルトップハウスの内部が詳細に描かれていて、私達訪問者を絵本の世界へといざなってくれる。 |
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▼2階で見学できるのは4部屋あり、まず寝室へ ビアトリクスが本の印税と、叔母からの遺産を資金にヒルトップ農場を購入したのが1905年。それまでに既に6冊の絵本を出版し、1907年出版の『こねこのトムのおはなし』、1908年出版の『ひげのサムエルのおはなし』『あひるのジマイマのおはなし』からヒルトップ農場や、ヒルトップハウス、農場のあるニアソーリーが絵本の舞台として度々登場する。 と、これまでの大事な年号をおさらいをして、さて続きを。 ヒルトップハウスの2階は、寝室、宝物部屋、プライベートの居間、ニュールームの4つの部屋が公開されている。 ![]() まずは寝室へと足を踏み入れた。ベッドの横に置かれているのは「アメリカン・ウィンザーチェア(Windsor chair)」で、シェーカー教徒が1800年頃に作ったシェーカー家具。ビアトリクスはこれを「永遠に残すべきもの」と思うほど特筆すべき素晴らしい椅子。 ▼見事な模様が施された天蓋付きベッドは1914年頃に購入したもの 寝室の場面で真っ先に思い出すのは、『こねこのトムのおはなし』で、「悪いことしたこどもはベッドで寝ていなさい」と寝室に閉じ込められる場面に描かれたベッドを思い出す。当然、この場面で描かれたベッドが寝室にあるのかと思いきや、さにあらず。『こねこのトムのおはなし』が出版されたのは1907年。寝室のベッドを購入したのは、ビアトリクスが結婚して住居をヒルトップハウスからカースルコテージに移り住んだ1914年頃。 ![]() 改めてベッドを見てみると、4つの柱で支えられた17世紀の湖水地方産 天蓋付きベッド(Four-poster bed)で、天井部分はひし形に彫られたパネルが16枚はめこまれ、へッドボード(Headboard)にも見事な模様の彫刻が掘られている。 ベッドの周りを囲うようにかけられている濃い緑色のダマスク柄生地のカーテン(Bed hangings)は、カーテン上部のレールが見えないように覆うヘッドクロス(Head cloth)もセットになり、そのどちらにも花柄模様が刺繍されている。 ![]() この刺繍は、ビアトリクス本人が金襴ブロケード(今風に書くと、カラフルな絹糸)で刺したもので、「外にあまり出かけられない私にとって刺繍することは良い娯楽」と晩年70歳を迎える前より刺し始めたもの。 1914年以降の作品でベッドが描かれているのは『妖精のキャラバン』の口絵で、緑色のカーテンとお揃いの生地のヘッドクロスも描かれた天蓋付きベッドがある。まったく同じではないものの雰囲気はそっくりだ。 ▼寝室の壁紙はウィリアム・モリスのディジー模様 ![]() さらにこの部屋の最大の特徴である壁紙は、ウィリアム・モリスのデイジー(ヒナギク)模様。他の部屋と違って、モールディングで仕切った上部にデイジーの壁紙、下の部分は同系色の模様無しと貼り分けている。 ビアトリクスはモリスの壁紙について「水彩画作品や写真など飾る場合にはとても不向きな壁紙、でも天蓋付きベッドの背景にはとてもふさわしい壁紙」と語った。 ![]() パッチワークのキルトカバーも同じくアメリカ製。 ![]() 椅子といえば、冒頭の『こねこのトムのおはなし』で寝室に転がっていた椅子。 ![]() 寝室のベッドと反対側の壁、ブランケットチェストの脇に置かれている1700年代のウィリアムアンドメアリー様式の椅子は、座面が籐(cane-seated)を編み込んで作られたもの。もしかしたらこねこのトムたちが暴れてひっくり返した椅子はこの椅子かと思ったら、絵本に描かれたものとは少し違っている。 後日、ナショナルトラストコレクション(←ここをクリックするとコレクションが見られます)から、絵本に描かれたそっくりな椅子(座面の膨らみ具合や背もたれのデザインなどから)を見つけた。座面がイグサで編み込まれた1800年代の椅子。ホークスヘッドにあるビアトリクス・ポター・ギャラリーにて展示されていることになっているが、入ってはいけない扉の向こうにあったので撮影できなかった。 ▼寝室の装飾品 ![]() 壁に掛けられたオウムと鴨の3枚の絵画をひとつの額に入れている作品は、サミュエル・ディクソンのグワッシュ画法で描かれた1750年頃の作品。この作品の裏にビアトリクスのメモ書きで「子どもも見ると思うからオウムの作品(真ん中)の上に描かれた蝶を取り除くべき」とある。確かに空を飛ぶ見た目がクラゲのような蝶で不思議な感覚に陥るので、最もな意見かも。 ![]() ビアトリクス自身が刺繍したベッドカーテンとは別に、寝室には二つの「サンプラー」と呼ばれる刺繍作品がオウムと鴨の作品の両脇にかけられている。 サンプラー(280x270mm)は、手芸の技を磨くため、色々な柄やアルファベットを寄せ集めたデザインのことで、ビアトリクスはこれをどのような経緯で入手したのかまでは分かっていないものの、金色の糸のみで仕上げた縫い目がとても細かく、またモチーフの位置決めの正確さなどから仕上げた人の技術の高さが伺える作品。もうひとつのサンプラー(←ここをクリックするとコレクションが見られます)はさらに細かい手紙か書籍の一部を図案化したもの。 ![]() 寝室の暖炉にも素敵なエピソードがある。 ![]() 1934年、ウィリアムはビアトリクスとの結婚21周年を記念し「W H B」の頭文字と「1934」の年号を刻んだマグサ(暖炉上部の木製炉棚部分)を取り付けた。その炉棚に、1階の応接間でも見たスタッフォードシャードッグと呼ばれる置物、スパニエルが飾られている。真ん中にあるジャグは、スタッフォードシャ―の「The Farmer Arms」と呼ばれる水差し。 寝室はビアトリクスが気に入ったものだけでなく、それらに感化されて自ら刺繍したり、ビアトリクスのこの家に対する思いが一番こめられた部屋ではないだろうか。 |
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