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〜〜〜  ビアトリクス・ポターの聖地を巡る旅(2018年6月) 〜〜〜

3日目(6/19) 湖水地方 ボウネス・オン・ウィンダミア〜ニアソーリー〜ホークスヘッド〜コニストン
  


  • ヒルトップ農場 その6 2階宝物部屋(Hill Top Farm Beatrix Potter's House)

▼好きな物が詰まったヒルトップハウス

ヒルトップハウスの2階、寝室の次は宝物部屋へ。

 宝物部屋(Treasure Room)は、4畳半ほどの小さな部屋。ここにビアトリクスの大好きなグッズが収められている。ビアトリクスは、ここで大好きなグッズに囲まれ、棚より取り出しては眺め楽しみ、イマジネーションを膨らませ、そして再び現実へ立ち向かう気持ちを奮い立たせていたのだろうか?

 宝物を見て行く前に、ビアトリクス自身の収集歴について振り返ると、有名な話として10代の頃、昆虫採集で集めた虫たちをスケッチし標本にした。顕微鏡を用いて蝶の翅の花びらのように見える鱗粉をひとつ、ひとつ丁寧にスケッチした作品も残されている。キノコに夢中になっていた頃もあれば、化石や貝殻などを見つけ自然研究家としての興味から収集して描いた。

 また別の側面から見れば、ビアトリクスは古きよきもののコレクターとして名をはせても良いぐらいのコレクションを所有している。それぞれの部屋に配置されているアンティーク家具については既に紹介しているとおりで、それら家具に収められている陶器やフィギュアなども18世紀から19世紀初頭にかけてのものが集められている。



 1階のエントランスホールにある白地に藍色の青花(せいか)磁器の大皿は、中国 景徳鎮の窯より生み出されたもので、17世紀に入りヨーロッパで大変な人気を博し盛んに輸出されたもので、これら青花磁器は大小合わせて11枚あった。



 そして、エントランスホールの暖炉に飾られている様々なホースブラス(棚の下ぶら下がっているもの)に加え、ロイヤルドルトンの水差しやマグ(棚の上、左から3番目、4番目、6番目がロイヤルドルトンの水差し、7番目、8番目がロイヤルドルトンのマグ)など。



 水差しは、水や酒類の容器としてでなく、水差しと「ボウル(Bowl)」と呼ばれる大き目のボウルを洗面ボウルのように、顔や手を洗うのに使用したことだろう。そう『こねこのトムのおはなし』でトムたちが顔を洗うみたいにね。

 また、現在のヒルトップでも水差しを花瓶のように使用されていたが、ビアトリクスも庭の花を摘み、水差しを用意して花瓶として利用していたことだろう。それにしても水差しの種類と数に驚く。



 応接間の棚は、既に紹介した水差し以外にもまだたくさん並べられていた。大き目のマグも水差しと並べると花瓶代わりに使えそうだ。食器に関しては、きちんと戸棚に収められているからそれほどたくさんあるように思えないが、これまた隙間なく収められているので全部並べたら相当なコレクションであることは間違いない。

これらの食器は、ブランド名が分かるものだけでもそうそうたる顔ぶれで、英国4大名窯と呼ばれた「ミントン」、「ロイヤルウースター」、「スポード」、「ウェッジウッド」はもちろんのこと、「ロイヤルドルトン」、「ロイヤルコペンハーゲン」、「ロイヤルクラウンダービー」、「マイセン」など、ビアトリクスが生きていた時代に既にアンティークと呼ばれた100年前の食器を収集しているものだから、これら有名ブランドのアンティーク食器好きには垂涎の的であることは間違いない。

さらに、17世紀より19世紀までヨーロッパで人気を博したのは、中国風デザインを用いてヨーロッパで作られた陶器で、これらを「シノワズリ(フランス語Chinoiserieが語源)」と呼び、ビアトリクスもボウルや小皿などシノワズリの食器を多数揃えている。



 1階応接間の食器棚。一番上の段に1770〜1800年のシノワズリのボウル、二段目に1800年代ロイヤルクラウンダービーのティーポット、三段目に1800年代のロイヤルコペンハーゲンの大皿、下の段の真ん中に1710年シノワズリの大皿、その両脇に1840年のスポードの深皿。

 英国紅茶の歴史によると、1740年代を境にそれ以前は「ティーボウル」というカップにハンドル(取っ手)部分がない器で紅茶を飲んでいた。しかしそれ以降、ティーボウルにハンドルが付き、現在のカップ&ソーサーとなる。ヒルトップは、そんな紅茶の器の移り変わりとして、ティーボウルもカップ&ソーサーもそのどちらも見ることができる。

こうして改めて応接間の食器棚を見ると、ニ段目の手前にある小ぶりボウルがテイーボウルで、三段目がカップ&ソーサー。

▼宝物部屋

 ビアトリクスのコレクション歴を少し垣間見たところでいよいよ宝物部屋を見てみよう。この部屋で一番に目が奪われるのはドールハウスだろう。



 このドールハウスは、『2ひきのわるいねずみのおはなし』に描かれたものではないが、パネルの開口部が閉じられ中はよく見えないものの、この中におはなしに描かれたキッチンテーブル、椅子、ナイフやフォークなどのカトラリー、フライパン、料理用レンジ(暖炉)、暖炉用火ばさみ、シャベル、フライパン、アイロン、鍋、やかん、ゆりかご、鳥かご、ブラシとちりとりなどなど。おはなしに絵が描かれたミニチュアパーツがこのドールハウスに収められている。もちろん、トム・サムとハンカ・マンカがめちゃくちゃにした石膏でできた食べ物、ハムや果物も。


 ドールハウスの窓からのぞくと赤ん坊のゆりかごが。


 ドールハウスの上に、収集した貝殻と一緒にあるのは、お人形用のアクサリー。

 2016年から2017年にかけて日本で開催されたビアトリクス生誕150周年記念「ピーターラビット展」で、『2ひきのわるいねずみのおはなし』のモデルになったビアトリクスのコレクションのお人形が展示され、その際お人形とは別にお人形用のドレスが2点一緒に展示された。

 お人形遊びをしたことのある方なら人形だけで飽き足らず、着せ替えなどして楽しむはず。ビアトリクスもドレスやスカートにジャケット、靴やアクセサリーなど色々とコレクションしていて、季節やシーンに合わせて着せ替えを楽しんだのかもしれない。そうしたお人形用の小さな櫛やブラシ、手袋などが見られる。

▼アンティークチェア



 ドールハウスの両脇に置かれているのは、背もたれの形が特徴的な椅子で、1840年代のウォルナット材、ビクトリアン バルーンバックチェア(Victorian Balloon Back Chairs)がドールハウスを挟んで2脚ある。

 ビアトリクスの好きなコレクションにアンティークチェアも加えたい。各部屋、それぞれ用途に応じてデザインの異なるアンティークチェアが配置されている。これまた椅子好き、アンティークマニアにはたまらないコレクションではないだろうか。

▼ブロンズ製のキャラクターたち


ドールハウスと反対側にあるのは、黒檀色に塗られたショーケースキャビネット。ここにはたくさんの骨董品が並べられている。



 まず目につくのは、ブロンズ製のキャラクターたち。1930頃から製造されたもので、大きさは2pぐらいの小さなものがずらりと並んでいる。

 ベンジャミン・バニー(写真下)と『グロースターの仕たて屋』淑女ネズミの陶器製(写真上)のブックエンド(M.M.Jones社製)があり、ドールハウスに入りきらないウェッジウッドのミニチュアで、グリーンやブルーのジャスパーウェアの水差し(3〜5p)やマグなども形や大きさなど違うものがたくさんある。



▼透かし模様の入ったミントンのプレート

 その下の段には、透かし模様の入ったミントンのプレート。このプレートは、シンプルなのにゴージャスな縁取りで、状態がとても良く、使用せずに眺める専用だったかもしれない。プレートの右隣にあるのは、マイセンの1750年のティーキャディが2種類。日本の駅弁のお供だった汽車土瓶のように、紅茶をティーキャディに入れて持ち運んだのだろうか?



ショーケースの下段真ん中にあるのは、1830年のスタッフォードシャ―で作られた黒光りした独特な色合いのティーポット。これは釉薬してから窯に入れるのではなく、焚口から食塩を投入し窯内に食塩蒸気を発生させるという塩釉手法によるもの。

▼用途不明な箱類小物

 小さな箱類もたくさんある。白い卵型の入れ物や、螺鈿細工が美しい箱、べっ甲細工のもの、おしゃれな婦人が描かれた丸い陶器の箱も。ショーケースの中だけでなく、各部屋に箱類が数個あることから、箱も必要に応じて色々な種類が増えたのかもしれない。



 蓋の部分に型抜き模様が入った金属製の入れ物(黄色矢印)も何点かあった。これらも蓋を開くと中に物が入れられるようだが、例えば「白粉入れ」もあるようだ。また、タイガーアイを加工したものもある。

 どれも上部に同じような模様がある。ひとつの仮説としてペーパーウェイトとして使っていたのではないだろうか?絵を描いたり、手紙の返事を書いたり、ペーパーウェイトは何かと重宝すると想像してみた。

▼ウェッジウッドのジャスパー



 もうひとつある黒檀色に塗られたキャビネットは、ウェッジウッドのジャスパーウェアの壺が対になるよう並べられ、真ん中にあるのもジャスパーの1800年の花瓶。

 その下の段にあるのは、ロイヤルクラウンダービーの花瓶が対になり、真ん中に真っ黒で黒檀色と色が被ってはっきりとしないが、ウェッジウッドのバサルトウェアの壺がある。



 2階の各部屋は、たくさんの絵画作品が飾られていて、部屋ごとに少しずつその趣向が変わっていくのも興味深い。寝室はウィリアム・モリスの壁紙がひとつのアート作品のようだった。宝物部屋は小さくて可愛らしい作品が中心だ。中でもビアトリクスに影響を与えた挿絵画家、ランドルフ・コールデコット(Randolph Caldecott)の作品「6ペンスの唄をうたおう(下)」と「果樹園で洗濯を干す女性(上)」。



 花の絵は、バレンタイン・バーソロミュー(Valentine Bartholomew)の「ロサ・ガリカ(左、バラの一種)」と「プリムラ・ファリノーサ(右、セイヨウユキワリソウ)」。この画家は、ヴィクトリア女王専属の植物画家(Flower Painter)で、「アザレア」など作品がV&A博物館に所蔵されている。



 美少女が描かれたこの作品は、ジョージ・ダンロップ・レスリー(George Dunlop Leslie)の「桟橋の二人の女性(Two Young Ladies on a Jetty)」1884年。19世紀の生活様式を写実的に描かれた作品が多く、テートギャラリーやロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(ロンドン)にもレスリーの作品が所蔵されている。



 もうひとつ紹介したいのが、多分ケイト・グリーナウェイ(Kate Greenaway)の「Valentine(1875年)」の作品。三大絵本作家と呼ばれる、ウォルター・クレイン、ケイト・グリーナウェイ、ランドルフ・コールデコットで、その内の二人の巨匠の作品が飾られていることになる。



 なんとも贅沢で、部屋全体に好きが詰まった宝物部屋だ。この部屋の片隅にある書き物机が、宝物部屋を飛び出し日本の各地を「ピーターラビット展」で巡回した。この部屋の中にあると周りのお宝が凄すぎて、この部屋の中ではひっそりと目立たないけれど、日本でまじまじと家具の美しさを堪能させてもらった。

 ビアトリクスが好きな物が詰まったヒルトップハウス。その中でもこの宝物部屋はドールハウスの小物たちのような小さくて可愛い物が詰まっている。彼女の一面がまた分かってきたところでさらにまだ残り2つの部屋も紹介しなければ。
ヒルトップ農場へ その6(完)
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▼プライベートリビング

 ヒルトップハウスの2階、宝物の部屋の隣、プライベートリビングへ。1階の応接間ほど堅苦しくなく、家族や親せき、親しい人と集いリラックスする部屋として利用されたとか。

 部屋の大きさは、6畳間ぐらいで、四方の壁に絵画が何点も飾られている。絵画は、宝物部屋がファンタジーの作品が多いのに比較して、この部屋の作品は山や海の景色を描いた風景画が多い。その中に混じって弟バートラムの作品も飾られている。



 ピアノの真上に飾られているのは、ビアトリクスが大好きだった弟、バートラムの作品「夕焼け空にガチョウの群れ(A Sunset with a Flight of Geese)」。

 このピアノは、ムツィオ・クレメンティ社(Muzio Clementi and Co.)が1810年ロンドンで製造したマホガニー製のスクエア・ピアノで、鍵盤数は68、弦は斜めに配置されている。ビアトリクスの夫のヒーリス家からやってきたものらしく、蓋の裏に「E.H & M.H」と年号がひっかき傷のように刻まれている。

日本最古のピアノもメーカーは違うものの、英国製のスクエア・ピアノだそう。
山口県 熊谷美術館 「日本最古のシーボルトのスクエア・ピアノが展示されている美術館」

 ピアノを支える脚は、ぐるぐる螺旋状にねじられるバーリーシュガーツイスト(Barley Sugar Twist)風のデザインで、音楽を楽しむだけでなくインテリアの一部としても楽しめるもの。

▼こねこのトムたちが身支度した部屋



 出窓に目を向けると、『こねこのトムのおはなし』でよそゆきのエプロンを着たミトンとモペットの姿が。そうこの部屋でトムたちは身支度を整えたのだ。どうしてこの部屋と分かるかというと、、、



 描かれた挿絵と置き場所が相違(挿絵は出窓の右側、実際は左側)するものの、マホガニー製の箪笥の上にある置き鏡が描かれた。この鏡は、曾祖母アリス・クランプトンの形見で、引き出し部分に象牙の取っ手がついた1850年頃のもの。



箪笥も取っ手の部分が挿絵と同じで、この部屋にあった物が描かれたのではないか。そうして改めてこの部屋の出窓を見ると、その高さが椅子の座面と同じで、ネコがひょいと飛び乗れる高さであり、挿絵の位置関係もぴったりとはまる。

▼装飾品



 暖炉のそばにあるマホガニー製の刺繍枠、スクロール・フレームは、1830年頃のもので、ビアトリクスが指しかけの刺繍がそのままつけられている。



 炉棚にあるのは、ロイヤルクラウンダービーの1878年の花瓶が対に飾られている。美しい白磁で台座の部分にシルエットが刻まれたもの。絵画は、ウィンダミア湖のアンブルサイド側ウォーターヘッドから見た景色を描いた1800年頃の作品。

▼書き物机付きの書棚



 この部屋のひときわ大きな書き物机付き書棚は、1770年頃のマホガニー製で、高さは天井ぎりぎりの2m13p。この書棚はビアトリクスが初めて購入したアンティーク家具で、ビアトリクスの死後、カースルコテージよりこの部屋へ運びこまれた。



 書棚の真ん中に、日本で開催された原画展に展示された黒い服と赤い服を着たお人形(原画展図録P194参照)が飾られていた。お人形の前にあったのは、原画展でも使用された「ブルーウール(The Blue Wool Scale)」で、積算照射量で色が変わる特別な試験紙だ。



 一番下の段にあったウェッジウッドのグリーンラインが入ったナーサリーウェアコレクション(原画展図録P201参照)と、グリムウェイズのチャイルドウェアコレクション(原画展図録P202参照)も原画展で展示されたもの。

 この書棚の中の半分以上が日本にやってきていたなんて本当に信じられない。

 グリムウェイズの食器セットの真ん中や、左側の端にある卵入れに、ビアトリクスが装飾したイースター(復活祭)で使用する卵転がしレース「ペースエッグ」が飾られている。ビアトリクスは村の子ども達のためにペースエッグ用の装飾をしたそうだ。

▼アンティークチェア



 この部屋にあるアンティークチェアは3種類。ピアノの前にある椅子と、書棚の左右にある椅子は、背もたれが麦の穂を束ねたような形をしているところから「ウィートシーフバッグ(Wheat-Sheaf Back)」という椅子。



 ピアノの左側にある椅子は、繊細な透かし模様が彫刻された「リボンバック」という椅子。3種類共1770年頃のマホガニー製で、赤茶色の美しい色をしていた。

 ビアトリクスの写真もたくさん飾られ、プライベートルームに足を踏み入れた感覚をより一層深める部屋でもある。ヒルトップハウスもいよいよニュールームを残すのみ。
ヒルトップ農場へ その7(完)
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