ラピータの部屋 >ピーターラビットイベント&企画展報告ページ2010年開催されたピーターラビットイベントINDEX>ビアトリクス・ポタ―展 自然への愛から生まれたピーターラビット原画展報告レポート

「ビアトリクス・ポター展 〜自然への愛から生まれたピーターラビット〜」


開催期間: 2010/7/17 〜 9/5 終了しました。
   郡山市立美術館で開催された企画展(入場料 800円)
 時間: 午前9時30分 〜 午後5時
      7/24以降の毎週土曜日は、午後8時まで(夜間開館時に入場の方はポストカードをプレゼント)

 「ビアトリクス・ポター展」が開催されている郡山市立美術館へ行ってきました。

  
 (写真左) 道路に面した正面ゲートに掲げられたボード (写真右) 正面ゲートより緩やかな下り坂の先に美術館の建物が。正面入り口にもポスター。

 郡山駅周辺は、ビルが立ち並び都会的な雰囲気でしたが、駅から少し離れ阿武隈川の橋を越えると景色が一転し、道の両脇に木々が立ち並ぶ、緑豊かな景色に変わります。そんな木々が生い茂る森の中に美術館はありました。

 美術館賞その前にランチタイム!

  
 (写真左) カフェ&レストラン「フローラ」  (写真右) フローラの入り口に展示されたポストカード(ファミリア時代のものや、最新のポストカードも)

  
 (写真左) ランチにトマトとココナッツの深い味わい「オリエント・カレー」をいただきました。自家製ピクルスが添えられおいしかった。
 (写真右) 食器棚にもピーターのプレートが展示。残念ながら観賞用みたいです。

 いよいよ郡山市立美術館の館内へ。

  
 (写真左) 玄関ロビーからギャラリーへと続くアプローチ 
 (写真右) 写真撮影コーナー。キャラクターたちの真ん中に足跡があり、足跡の通り足を斜めにして立つと、不思議とランニングピーターポーズを決めたくなる仕掛けが(ナイナイ)

  
 (写真左) 受付の裏にあるライブラリー。美術雑誌が読み放題
 (写真右) 郡山市立美術館が発行している「ザ・ニュース」Vol.36にポター展について紹介記事が掲載されていました。

  
(写真左)塗り絵コーナー 塗り絵は3種類 奥の本棚には、触って遊べる仕掛け絵本など数種類(←写真右)用意されていました。

 今回はより深く展示作品を学びたいということで、主任学芸員の中山さんによるギャラリー・トーク(約40分)を聞きながら見学しました。

  
 (左)図録「ビアトリクス・ポター展」  ブックグローブ社(刊) 2010年
  (右)図録は、このような紙製のケースに入れられ、販売されていました。(ビアトリクス・ポター展オリジナルポストカード2枚付き)

 
 (写真) ビアトリクス・ポター展オリジナルポストカード 10種類(これらポストカードの内、2種類が図録入りケースに入っていました)


 展示室内は、展示作品を所蔵するヴィクトリア&アルバート(V&A)博物館の厳しい照明制限により、水彩画の作品を保護するため50ルクス以下と決められているため、かなり薄暗くなっていました。あまりの薄暗さに、何度も目をしばたたかせるのですが、目の前にある作品をじっくりと目をこらすだけであっという間に目が疲れてしまいます。

 今回の展示作品は、「絵本作家としてのビアトリクス・ポターばかりでなく、これまであまり知られてこなかった、すぐれた動植物画や風景画にも光を当て、また貴重な資料の数々とともに、彼女の画業を振り返ります」と、図録ビアトリクス・ポター展の主催者の言葉にあるとおり、10代の作品、観察と研究に明け暮れた20代、絵本作家となる30代、さらに絵本からの広がりという4部構成で展開されています。

 <第1章 絵と生き物を愛する都会の少女 1882年以前の絵画(10代の作品)>

 ビアトリクス・ポターが生まれた頃の時代背景と、ポター家の暮らしぶり、その中でビアトリクスがどのような10代を過ごしたかというところにスポットを当て作品を展示しています。

 主な作品) 暗号文字で書かれたポターの日記、果物の静物画、ヤグルマソウとヒナギク、他(写真も含め14点、出展作品は図録の出品目録に記載)

 これら作品の中で、15歳になる1881年からつけ始めた暗号日記のオリジナルが展示されていました。ビアトリクスにしか理解できない暗号で書かれているということは知っていましたが、罫線のないメモ用紙に一ミリほどの小さな文字で一直線に綴られ、行間も一ミリほどしかなく、虫メガネがなければ到底読むことは不可能な上、これらすべてが暗号文字で成り立ちます。これほどまでにビアトリクスが秘密にこだわった理由のひとつに、母親との確執があり、距離を置きたいという強い気持が存在したことが挙げられます。確かにプライベートな日記は誰にも見られたくないものですが、これほどまでに集中して書き綴ることができるという芯の強い女性像が浮かび上がります。

 また、これらの暗号文字をすべて解読したレズリー・リンダー氏のおかげで、ビアトリクスの詳細な行動、考え方、興味を抱いた事柄について知り得ることができます。

 「ヤグルマソウとヒナギク」の紫色に注目してください。水彩作品は非常にデリケートで、印刷時に変色しやすく、色が飛んでしまうため、特に紫や青はまったく違って見えるそうです。実際の作品の紫色はとても綺麗で、透き通るような鮮やかさです。

 <第2章 小さな自然と大きな自然に魅せられて 1883年以降の絵画(20代の作品)>

 ビアトリクスが育った19世紀の当たり前だった常識、女性は学校に通わず家庭教師について学ぶことや、上流階級ゆえ同年代の近所の子供たちと遊ぶことを禁止され、友人と呼べるのは同じ子供部屋の様々なペットたちだったことが、その後の人生に大きく、深く影響を与えていくというところにスポットを当て作品を展示しています。

 主な作品)犬の頭骨のスケッチ、クモ、北米産カメ、キノコの作品3点、ヤマネのスケッチ、オニユリ、マツユキソウ、風景画数点、他

 子供部屋で一緒に暮らしていたペットたちは、ネズミ、トカゲ、イモリ、クモ、チョウ、ヘビ、コウモリ、ウサギ、カタツムリなど。これらすべてに名前を付け、対象を克明に観察しスケッチします。彼女の偉大なところは、探究心が自然博物学者の域に達していて、顕微鏡で観察した昆虫の構造を正確に写し取ったり、ペットが亡くなると解剖し骨格標本にして、それらを細部に描きとるということをおこなったのです。そうして描かれた作品が展示されていました。

 また、毎年春の大掃除の時期と、夏の数カ月間、ポター家は一家そろって英国のリゾート地に滞在するのも恒例の行事となっていました。春は暖かさを求めてイングランド南部の海辺に、夏は避暑地のスコットランドや湖水地方、ウェールズも訪れています。大都会ロンドンとまったく違う、自然豊かな景観の中で過ごした風景画も展示されています。

 20代で最も熱心に活動したことのひとつに、キノコにおける菌類の研究があり、女性の幸せは上流階級との結婚という母親から自立したいという気持ちも強く、科学者を目指そうと研究に打ち込み学会に発表する新発見のレポートを完成させたのですが、女性であるということから学会での発表を許されず、科学者への道を断念させられます。そうしたキノコに関するスケッチも3点展示されています。

 <第3章 絵本作家 ビアトリクス・ポター 1893年から1930年まで>

 いよいよ絵本作家ビアトリクス・ポターの誕生です。20代で受けた科学者への道を諦めるという挫折から立ち直り、絵本作家への道が切り開かれるそのきっかけとなった事柄と、絵本の創作過程などにスポットを当て作品を展示しています。

 主な作品) 子供たちへ宛てた絵手紙原文、おはなしの舞台として描いたスケッチの数々、絵本の初版本、おはなしの下絵、他

 ビアトリクスの最後の家庭教師だったアニー・カーター女史とは、年齢も近くすぐに打ち解け友人と呼べる存在となります。アニーは、ムーア家に嫁ぎ家庭教師を辞めますが、ビアトリクスとの付き合いはムーア家の家族ぐるみでその後も続いていきます。そして、1893年9月4日、ムーア家の長男ノエル宛てに書いたビアトリクスの絵手紙、これこそが絵本作家ビアトリクス・ポターが誕生するきっかけとなるのです。

 たった一人の子供を喜ばせるために書いた物語。その思いはノエルの胸に響き、宝物ようにその手紙を保管し、やがてノエルの母アニーたちの助言もあり、この物語を絵本にしようと決意するのです。残念ながら『ピーターラビットのおはなし』の基となった絵手紙の原文はパネル展示でしたが、ノエルの弟エリック宛て(1894/3/28)と、妹マージョリー宛て(1900/4/24)の絵手紙の原文が展示されています。テキストにからめて鉛筆の走り書きの絵がとても可愛らしくて、こんな絵手紙をいただくと誰もがうれしくなってしまいますね。

 さらに絵本の初版本を展示し、そのおはなしの舞台となる背景をスケッチした作品が展示されています。これもまた、印刷物とは違う水彩画のデリケートなグリーンなどがきつい色になるため、原画の本当の色合いを楽しんで欲しいと説明がありました。

 <第4章 絵本からの広がり>

 絵本作家としてのビアトリクス・ポターは、1902年から出版した23作品と、その他には長編物語と短編のいくつかを残しますが、それ以上の作品は生まれませんでした。しかし、彼女は絵本で得た収入によりその後の人生を再び変えていくのです。それが最終章の絵本からの広がりとして展示されています。

 主な展示作品) カード類、絵本関連のグッズ、他

 絵本作家となる前のビアトリクスは、飼っていたペット、ベンジャミン・バウンサーをモデルにクリスマスカードのデザイン画を手掛け、それらが出版社の目にとまり絵を描くプロとしての第一歩を踏み出しました。絵本作家後も、慈善事業の発展のためにクリスマスカードなどを作成し活動を支援しまし
た。これら、カードの原画が数多く展示され、そのひとつ「カリフラワーと手紙を持つピーター」が郡山市立美術館の製作したポスターやチラシとして登場したのです。

 絵本作家として得た収入により、以前から親からの自立を考えていたビアトリクスは、ニアソーリーに売り出されていた屋敷ヒルトップを購入したことを皮切りに農場経営にたずさわっていきます。湖水地方にのみ存在するハードウィック種の羊を増やすために尽力をつくし、周囲の土地が売りだされるや開発業者によって森林が伐採されるのを阻止するために、土地を購入する努力も惜しみませんでした。こうして絵本に描かれたままの景色がそのままの景観を保ちながら英国の自然保護団体ナショナル・トラストへと受け継がれていくのです。これら、奇跡の景観が、近著「ビアトリクス・ポターが残した風景」メディア・ファクトリー(刊)を出版された辻丸純一氏による写真パネルで展示されていました。

 最後に、学芸員さんの言葉で印象に残ったのは、

 「女性が自立するなど考えられない時代背景に流されることなく、自立することを成し遂げたばかりか、
  絵本作家として成功した収入をその土地を守るために取得し後世にそのまま残したこと。
  ようやく時代はエコという考え方にたどりついたその100年以上も前に、
  これらを成し遂げたビアトリクス・ポターは、先進的な意識を持った女性です」

 という言葉です。

 また、「ピーターラビットや絵本の作品だけを楽しみにされている方には少し物足りなく感じられるかもしれません」と心配されていましたが、緻密な観察眼を持って描かれた作品の数々は、どれも目を惹きつけますし、子供の頃から描くことに真剣に取り組み、色にまでこだわり表現方法を磨き上げたこと、また科学者を目指した青春時代、そして絵本作家となるものの、自らが愛した美しい自然景観を守るために努力を惜しまずその持てるすべてを尽くしてきたという「究極のエコ」を100年も前に率先しておこなった女性であるということが、数々の作品や写真パネルから伝わってきました。

 「彼女のやり遂げたことって、なんて素晴らしいことなんだなぁ」と改めて感じた一日でした。

 この原画展は、下関での会期が終了しましたら、すべての作品が英国のヴィクトリア&アルバート(V&A)博物館に戻ってしまい、その他の美術館での一切展示はおこなわれません。関東近辺にお住まいの方は郡山へ、関西近辺にお住まいの方は下関へ、ぜひビアトリクス・ポターという人に興味をもたれた方は原画展に足を運んでください。きっと私達の知らなかったことに触れることができ、素晴らしい思い出が作られることと思います


 ビアトリクス・ポターの原画を見て、感動で胸いっぱいだったのですが、お腹の方は別腹ということで、再びカフェ&レストラン「フローラ」にておやつをいただくことに。

  
 (写真左) 「ビアトリクス・ポター展」会期中の限定メニュー「ピーターラビットのお茶Set」の案内
 (写真右) 「ピーターラビットのお茶Set」 カモミールティと本格英国焼き菓子ショートブレッドが2枚 ピーターラビットのお皿で登場かと思いきや、ちょっとがっかり。

 
 (写真) こちらは「焼き立てスコーン」 このスコーンが大変おいしく、おみやげ用にも販売されていました。

 「ビアトリクス・ポター展」に合わせてピーターラビットのグッズショップコーナーがオープンし、グッズがとても充実していました。

 今回の原画展の図録や、早々と先行限定発売の2011年カレンダー、チャンティさんのデコパージュや、クリスタル、原画展オリジナルポストカード、クリエティブヨーコのイングリシュ・ガーデンのグッズや、ゴブランのバッグ、優美社のエコバック類、オーガニックTシャツなどなど。

 ●「ビアトリクス・ポター展」の会場にて販売されていたピーターラビットグッズ
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   グッズに関してはこちらをクリックしてご覧ください。


 郡山市立美術館の「ビアトリクス・ポター展」で開催されたイベント:

  ・記念講演「イギリス、この美しき田園の国」
    開催日: 2010/8/1(日) 午後2時〜 入場無料
    場所: 郡山市立美術館 多目的スタジオ
    講師: 作家、書誌学者 林望氏

 ・ ビアトリクス・ポター展 記念講座
    開催日: 2010/8/28(土) 午後2時〜 入場無料
    場所; 郡山市立美術館 講義室
    講師: 郡山市立美術館学芸員
    館内所蔵品との関連とビアトリクス・ポターの生涯、及び企画展出品作品についての講座

 ・7/24、9/4 ・・・ ギャラリー・トーク 学芸員による作品解説 午後2時より〜
 ・7/31、 8/21 ・・・ おはなし会 参加無料
 ・8/8 ・・・ ピーターラビット エコステージ ピーターラビットとベンジャミンバニーがエコについて教えてくれるステージを開催
 ・8/14 ・・・ 英国ロイヤル・バレエ団「バレエ ピーターラビットと仲間たち」 上映
 ・8/29 ・・・ 映画「ミス・ポター」上映

 

(2010.8.6 レポート 作成: ラピータ ラピータの部屋コンテンツ)

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