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大東文化大学 ビアトリクス・ポター資料館
開館7周年記念講演 動物学者が読む『ピーターラビットのおはなし』


 
  開館7周年を迎えたビアトリクス・ポター資料館

 
 建物全体 正面入り口の右側に藤の花

 資料館の壁面に藤が見事に開花していました。日本で藤といえば紫がほとんどですが、資料館は英国ニアソーリーのヒルトップ・ハウスと忠実に白の藤の花。花がつくまで、白でなければどうしようと関係者のみなさんが心配で見守っていたというエピソードもお聞きしました。

以下のURLをクリックしていただけると、本場ニアソーリーのヒルトップ・ハウスの藤の花の様子がご覧いただけます。
写真共有サイトFlickrにアップされている写真です。クリックしてご覧ください。

http://www.flickr.com/photos/camera_dave/5768612312/


  
 講演は、埼玉県こども動物自然公園内の森の教室で開催されました。写真右、座っていらっしゃるのが島泰三先生。お隣にいらっしゃる方は、埼玉県こども動物自然公園の日橋園長。

島泰三先生 ニホンザル、マダガスカル島のアイアイの研究
      マダガスカル島で「アンジアマンギラーナ監視森林」の管理・運営にあたる。
      著書に「親指はなぜ太いのか」「孫の力」「はだかの起源」「マダガスカル − アイアイの住む島」など。


 島先生は、小学5年生の頃に「ドリトル先生シリーズ」を読み、大人になったら獣医師になろうと思ったというエピソードより講演が始まり、今回の講演依頼を受け初めて『ピーターラビット全おはなし集」を隅から隅までご覧になられたそうです。

 そして第一印象が、「この人はなんて動物のことをよく観察しているんだ」と強く感じたこと。その中でも、一番印象に残った挿絵として語られたのが、『ピーターラビットのおはなし』の中で「ピーターがすぐりの網に引っ掛かり涙をこぼし、雀たちが「頑張って」と励ます」この挿絵です。

 先生は、マダガスカル島へ行くようになり30年が経過し、現地に6年間住んだこともあるそうですが、現地の雀の雛が地面に落ち、まだ上手く飛べずに地面でバタバタとしている光景に出くわし、その時親鳥が「頑張れ」と雛に声を掛けているかのように励ます姿が、この挿絵に描かれているのとまったく同じ状態だったそうで、その時見た光景がまざまざと思い出されると共に、これほど観察力に優れた人はいない、雰囲気の作り方がとても上手と感銘を受けたそうです。

 そういう気持ちにさせてくれたビアトリクス・ポター作品にすっかりと夢中になり、最新刊の「Dear Peter Miniature Letters by Beatrix Potter」も取り寄せ、絵手紙を紹介しながら、子供に宛てた絵手紙を本にした経緯が大変面白いと感じたそうです。

 英国 湖水地方の美しい自然とその景観を紹介するスライドを見ながら、ビアトリクス・ポターが行った自然保護活動についての話題にも触れます。

 島先生は、マダガスカル島のアイアイという希少動物を守るため、2002年にファンドを設立し、自然保護区を設け、見守り続けるという活動を行っていますが、ビアトリクス・ポターが湖水地方の美しい自然や景観を永久に守るため、その土地を所有し、そのすべてをナショナル・トラストへ寄付して、その当時のままの伝統を守りながら保全・維持していることに、「『動物が好き』という気持ちが原動力となり、相通じるものがある」という言葉に、時代を超えてポターの言葉が聞こえたような、そんな気持ちが伝わってきました。

 また、英国の美しい風景にマッチしたかのように建物を建設するのが英国スタイルで、例え建物の所有者が変わっても外観はそのままに残し風景を変えない。そのため、美しい自然と建物が調和された素晴らしい景観がそこに存在し続けていること。そして、現代の愛玩動物に服を着せるというのは当たり前のようにおこなわれていますが、英国ではファッションとして馬に毛布をかけるということがあり、ポターがおはなしの主人公に服を描いた挿絵と、服を脱いだ挿絵との対照がまた大変に興味深いと話されていました。

 「動物を見てぴったりのキャラクターを思いつく感覚も、ポターの素晴らしさ」ともおしゃっていました。例えばハリネズミの洗濯屋さんとかね。

 島先生が研究されているアイアイのスライドや、珍しい動物の宝庫であるマダガスカル島のネズミキツネザル、カメレオン、固有植物バオバブの木が並ぶ素晴らしい景色を紹介していただきました。

 最後に「ポターの作品を読んで、生き物の奥深さを改めて感じた。特にうさぎの見る目が変わった」と笑顔で締めくくられました。

 私も島先生の講演を聞き、文学作品のひとつとしてではなく、動物学者という専門家の方にポター作品を読み解いていただき、また別の新たな扉を開いていただいたような、そんな気持ちになりました。ありがとうございました。

 ところで、私もどうしても動物専門家の方に聞いてみたかった質問があり、お時間を頂戴してお聞きしてみました。

 『ピーターラビットのおはなし』より
 鳥が描かれている部分をアップ→ 

 『ピーターラビットのおはなし』で、マグレガーさんがクロウタドリ(文中、翻訳では「くろなきどり」とある)を追い払うためにかかしにピーターの脱げてしまった服を着せましたが、挿絵を見ると追い払うどころか逆に目立って集まってきたクロウタドリが描かれています。ここに描かれたクロウタドリは、フロプシー、モプシー、カトンテールがお母さんの言いつけを守って黒いちごを摘んでいる間も足元に描かれていますが、もう1種類色の違う鳥が描かれています。

 「この色の違う鳥はなんだろう?」と調べているうちに、メスではないだろうかという思いに至りましたが、実際のところどうなんでしょうか?という質問です。

 島先生の答えはずばり「その通りメスです」と。

 写真共有サイトFlickerより
 クロウタドリのオス              クロウタドリのメス
    
 Photo By Sy Clark              Photo By Sy Clark


 動物の群れは、オスを中心とし複数のメスで成り立っているのですが、鳥に関していえば一夫一婦制が多く、生涯夫婦で行動するというのが大きな特徴だそうです。そして、そこに描かれている黒い鳥はクロウタドリのオス(嘴は黄色、色は黒、目の周りに黄色のリング)で、もう1種類の鳥はクロウタドリのメス(色は茶色、オスに比べ身体は若干小さい)で間違いないそうです。

 先生はこうも付け加えられました。「これもまたポターの観察眼の凄さであり、名作として世に残る作品はそういくつもない。そして名作として残る作品は、とことん見る人の目に耐えられる作品のみが世の中に残る。それが名作だ」と。

 ポター作品の奥深さをまたひとつ得ることができたこの言葉に感動を覚え、貴重な体験でした。

 余談ですが、一緒に描かれたコマドリは何故1匹で登場しているのか?

 動物学者である島先生の答えは、コマドリも一夫一婦制ですが、コマドリは独立性が強く、オスとメスを同時に見ることはない。夫婦といえどもよく喧嘩し、仲が悪いそうな。あくまで動物行動学としての見解です。

 
 もし文学的作品としてのコマドリの重要な役目の解説をご覧になりたい方は、この本をお勧めします。
 「絵本の魅力 ビュイックからセンダックまで」吉田新一/著 日本エディタースクール出版部 1984年/刊

 こちらをご覧いただくと、また違う目でコマドリをご覧いただけることと思います。本当にポター作品は奥深い〜。

 次回は、どのような専門家の方によるお話が聞けるのか、とても楽しみです。最後までレポートを読んでいただき、ありがとうございました。

(2013.5.15 レポート 作成: ラピータ ラピータの部屋コンテンツ 撮影・協力 PETER GARDEN

関連サイト:
大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館  http://www.daito.ac.jp/potter/
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